院長ブログ
くすのき瓦版 8月号
夏の飲み物(その2)
先月号ではついお酒の話に終始してしまいました。酸アルカリを示すpHを示しながらむし歯になりやすい飲み物についてお話を進めてきました。pH5.6以下(生えたばかりの永久歯は5.8以下)で歯が溶け出すというお話でした。蒸留酒であるウイスキーがお酒の中では一番pHが高いので(pH6.0)どんどん飲んで歯磨きをしないで寝てもよいというお話ではありません。やはりウイスキーの中の糖分がお口の中の細菌によって分解され発酵し酸性になりますので良く歯ブラシをしてお休み下さいと言うお話でした。
自動販売機やコンビニで多くの飲み物が出回っていますが意外と飲み物の特性は知られていません。前回と同じようにpHの値で説明しましょう。コーラはpH2.2~2.9、スポーツドリンクは3.3~3.8、オレンジジュースが4.0です。「午後の紅茶」がpH5.5で「午後の紅茶」の中に歯を漬けておいただけでは歯は溶け出さない状態です。缶コーヒーが6.2、「生茶」が6.3、ミルクが6.8、ヴォルビックが7.0となります。
スポーツドリンクが意外と酸性が強いことに驚かれることでしょう。「夏の暑い時期に小さい子どもに水分の吸収が良く脱水予防に適している」と考えがちですがむし歯対策にとっては相当危険な事ですのでご注意してくださいね。口当たりの良い塩水ですのでついつい摂取量も多くなり塩分の取りすぎにもなります。以上の理由でスポーツドリンクのスポーツでの水分補給の使用以外にはあまりお勧めできません。クラブ活動でスポーツドリンクを常用している子供たちのむし歯を「部活むし歯」と名前をつけている歯科医師もいる位なのです。
因みにマラソン選手のスペシャルドリンクの中身は、紅茶を薄めてレモンや蜂蜜を入れて好みの味にすることが多いそうです。クラブの飲み物に「薄めの紅茶」は水分補給はもちろんミネラル分の補給対策にも理に適っている飲み物だと思います。
缶コーヒーは6.2なのでそのままでは5.4には達しませんが口に残ったコーヒー(糖分)を口の中の細菌が分解し発酵し酸を作るのでやはり危険です。「午後の紅茶」も同様です。でもあれこれ心配ばかり言っても嫌になりますよね。どのような飲み物にも特徴があります。分厚いハンバーガーにはやはりコーラが合いますし、熱が出た時にスポーツドリンクはやはり口当たりもよく体には受け入れやすいものです。
結論としては「歯に悪いものばかり習慣的に飲んでいる人は、お茶や水で喉の渇きを潤している人に比べてむし歯が起こりやすい事は確かな事なのだ。」と、まとめる事ができると思います。
くすのき瓦版 10月号
くすのき瓦版(10月号) 「血液サラサラのお薬(ワーファリン」」
INR(アイ・エヌ・アール)という言葉をご存知でしょうか?新しい女子ユニットではありません。K-POPグループでもなく今月は「健康とお薬」のお話です。INR(或いはPT-INRと表示されます)は血液の凝固機能(凝血能力)の検査項目です。正常値は「0.9~1.1」であり「3.0」を越える数字は相当血が固まり難い状態です。脳梗塞、心筋梗塞、不整脈の治療や予防的な意味合いで「血液サラサラのお薬(特にワーファリン)」を服用されている方は是非お読みください。
このINRはざっくり言えば「患者さんの凝血機能と正常な凝血機能の比」です。「血液サラサラのお薬」はINRが「1.6~2.8」の範囲で維持するように処方されています。歯科治療では抜歯や歯石除去といった出血を伴う処置が多いのでこのINRは歯科医師が知りたい数字なのです。抜歯はうまくいったが血が止まらなかったということは避けたいですからね。
INRが「2.8~3.0程度以下」ならば通常の抜歯を含めた歯科処置は行えると言うことが一般的な考え方です。抜歯の何日か前から休薬した時代もありましたが、寧ろ最近では歯科治療での止血処置に留意すれば休薬しないことが推奨されています。つまり「うまく凝血機能の管理されている患者さんは抜歯の何日か前から休薬する必要はありません」ということです。しかしこれはあくまで「数字」のお話です。当日の体調や処置の程度によって歯科治療の可否がありますので宜しくご理解ください。
それではHbA1c(ヘモグロビン・エー・ワン・シー)という言葉をご存知でしょうか?これは糖尿病の病態の指標となる数字で正常値は「4.3~5.8」です。従来は「空腹時血糖値」を大切にしていましたが直前の食事の影響を受け易いこともあり、最近ではHbA1cを糖尿病の病態の指標にしています。できれば「5.8以下」での歯科処置が望ましいわけですが自分の数字をよく知っている方はあまり多くはありません。「6.5以上」の数字では、感染や創傷治癒の遅れの可能性が多いといわれています。
歯科治療で血が止まらなかったり、傷が膿んだりすることは避けたいですのでINRやHbA1cの数値がわからない方に対してはかかりつけ内科に照会することが必要になります。時には即日歯科処置に入れないこともあります。是非ご自身の健康のためにも血液検査の数字を知り、何処かにメモしておかれることも大事なことです。
文責 嶋村浩一
くすのき瓦版7月号
くすのき瓦版 7月号をアップします。
今回は「夏の飲み物」です。別にお酒は夏だけではないのですがビールが大好きな嶋村は7月に出しました。
夏の飲み物(その1)
夏の風呂上りの冷たいビールは何物にも替え難いものですね。ビールは苦いので嫌だが缶チューハイならば好きという方も今月号をよくお読みください。
飲み物にはむし歯になり易い飲み物となり難いものがあります。ご存知でしたか?歯は酸性になると溶け出します。酸アルカリを示す数字をpH(ペーハー或いはピーエッチと呼びます)で示しますがpHが5.6以下で成人のエナメル質は溶け出します。因みにpH7が中性を示し、それより低い値は酸性を示します。因みに唾液はpH6~7(個人差或いは時間により差があります)で基本的に歯の溶け出す事を防いでいます。
さてお酒の話ですが、缶チューハイ(レモン)、梅酒、赤ワイン、ビール、日本酒、焼酎、ウイスキーの中でどのお酒の酸性度が一番強いでしょうか?答えは缶チューハイ、梅酒がpH2.9で一番酸性が強い数字を出しています。次いで赤ワインが3.8、ビールが4.3、日本酒が4.4、焼酎が4.9、ウイスキーが5.0となっています。ですから「缶チューハイをチビリチビリずーっと飲んで知らない間に歯ブラシもしないで寝てしまった」という事が多い人ははむし歯になり易い生活なのでご注意ください。長時間、酸性の環境の下で歯を晒している訳ですから歯が溶け出てしまうのです。どうです?貴方はそのような事はなかったですか?
お酒は穀物を発酵させてアルコールを作るために酸性になります。そしてアルコールの製造過程で産生される乳酸、クエン酸、コハク酸を初めとする有機酸が更に酸性に移行させます。
焼酎やウイスキーといった蒸留酒は発酵後に蒸留するために有機酸が少なくなり酸性の度合いが少なく(pH7に比較的近くなり)、ワイン、ビール、日本酒といった醸造酒は有機酸が残り比較的pHが低くなるのです。しかしその有機酸がお酒の旨味の正体であることは皮肉な事です。そして缶チューハイや梅酒は果汁成分(クエン酸)によって酸性の度合いが更に強くなりむし歯になりやすい飲み物に分類できると思います。
しかしお酒は楽しいし美味しいものです。楽しく好きなお酒を適量飲んで食べて、最後はお茶でも飲んで、きれいに歯ブラシをして寝て頂ければ「お酒は百薬の長」であることに変わりはありません。因みに私はお酒の類は何でも大好きです。今までに何本かのむし歯は経験していますがそれでも神経を取った歯はありません。手入れさえしていればそんなに虫歯になる事はないのです。缶チューハイのお好きな方もどうかご安心下さい。
今月はお酒の話で終わってしまいました。次回はお酒を飲まない方、子どもさんのための飲み物のお話をします。
くすのき瓦版6月号
くすのき瓦版6月号では歯科矯正で良くある相談を掲載しました。小学生の前歯の相談で、前歯がすいていること、傾いていることに対しての相談が多いので決してあわてなくても良いですと言う内容を記載しています。ご一読を頂ければ幸甚です。
醜いアヒルの子
「醜いアヒルの子」はアンデルセン童話の中に出てくるお話です。読者の方は歯の事と何の関係があるのかと思われることでしょう。実は「醜いアヒルの子」は小児歯科の分野でも古くから用いられている言葉なのです。
私たち歯科医師は、上の前歯が生えてくる小学校の1年或いは2年生から犬歯の生えてくる時期までの前歯の隙間が開いている時期の事を「醜いアヒルの子の時期」と呼んでいます。自分は「醜いアヒル」と思っていたが実は成長をした時にはきれいな白鳥になっていたという話がこの時期に当てはまるためにこのような名前になったのでしょう。
多くの場合、上の前歯は外側に傾斜して生えてきます。それは側切歯(前歯から2番目の歯)が骨の中で前歯の根を中心方向に押している為で、結果として前歯の頭を外側に回転さています。次の側切歯が生えて来るときには犬歯が側切歯の根を中心方向に押す為に側切歯から側切歯まで合せて4本の前歯が外側に傾斜して生えている状態になります。そして小学校5年生から6年生になって犬歯が生えてきた時に初めて前の4本或いは6本がまっすぐに生えてくるのです。成長した時にはすっかりきれいな白鳥になっていたという事です。
しかし最近は顎が小さくなり又、歯が多少大きくなった為に顎の大きさと歯の大きさが不揃いになる傾向が強くなり、歯並びの悪い傾向の子どもを見かける事が多くなりました。そして保護者の方の健康意識の向上もあり矯正治療にかかるお子さんも増えてきています。
前歯の隙間はこの「醜いアヒルの子の時期」に「犬歯の萌出を待ってみる事。あまり急いでの治療の必要はない。」という事が矯正歯科の一般的な常識です。只この時期の注意事項として、特に低学年の子どもさんにおいては上唇の真中の筋(上唇小帯)がきつすぎない事、口呼吸のない事、6歳臼歯のムシ歯予防が出来ている事を保護者の方に確認して頂くことをお願いします。そして前歯が大きく空いている場合には過剰歯の有無をかかりつけの歯科医院で調べてもらう事も(レントゲン1枚で分かります)合せてお願いします。