院長ブログ
不顕性露髄
神経が無くなると歯は極端に脆くなります。歯の神経を何とか残していこうとする治療があります(歯髄覆罩 シズイフクトウ)。ところが歯髄覆罩の後に極めて稀に痛みが出てしまうことがあり結局は神経を取ることになることがあります。
むし歯処置の刺激で神経の中にむし歯菌が逃げ込んだ結果、神経の炎症を惹起してしまうと説明されますが、この状態を「不顕性露髄」といいます。「顕」は見えるという意味で、顕微鏡の「顕」です。露髄の「露」は露出の「露」、「髄」は歯の神経のことです。つまり目には見えないけれど神経が出ている状態ということです。
細心の注意を以ってむし歯の処置をしていても、神経を何とか残そうと頑張ってみてもこの「不顕性露髄」はおきてしまいます。歯髄覆罩の直後に症状が出るハ場合もありますし、10年以上たってからで症状が出る場合もあります。
食べたものが挟まる、かぶせが合っていないという状態はむし歯の進行が速くなります。どうか歯の不調を感じたときにはできるだけ早期にかかりつけ歯科医師にご相談をしてみてください。
入れ歯安定剤
入れ歯安定剤は年間120億円の売り上げがあります。歯みがき粉が650億円の規模ですから相当の売り上げですね。入れ歯安定剤に頼らないほうがいいのでしょうが現実問題として年間120億円の商品が売れています。入れ歯をお使いの方にとっては避けては通れないお話なので今月は入れ歯安定剤との付き合い方についてのお話をしましょう。
入れ歯安定剤には「のり(クリーム)タイプ」と「クッションタイプ」がありますが、基本的にはのり(クリーム)タイプの商品をお勧めしています。
のり(クリーム)タイプの入れ歯安定剤はアメリカでは歯科医師の指示がないと使用できません。クッションタイプの入れ歯安定剤はアメリカではアメリカ歯科医師会(ADA)の認定すらありません。アメリカでADAの認定が無い歯科材料ということは日本ではJISマークの無い工業製品のようなものです。
入れ歯が不調のときには先ずかかりつけ歯科医によく調整していただくことが大切です。でもどうしても入れ歯がこすれて痛い、少し「吸い付き」が少ない、新しい入れ歯に未だ慣れていない場合に、少量ののり(クリーム)タイプの入れ歯安定剤を使ってください。もちろん多くの場合は入れ歯の調整や新調することで入れ歯安定剤を使用しなくてもよくなります。飽くまで入れ歯安定剤は何かのときにチョイ使いする程度で、入れ歯に関する問題の抜本的解決にはならないものとお考えください。
一方、急に体重が減少し歯茎が痩せて入れ歯に不都合が出てきた場合、通院や往診が受けられるまでの期間に限ってクッションタイプの商品を紹介することもあります。
入れ歯の不調やその他で往診の必要な方は京都府歯科医師会 「口腔サポートセンター」にファックスで住所、電話、ファックス、患者氏名、主病歴を記入し「往診依頼」と大きく書いてお知らせください。0120-72-8020 が連絡先です。亀岡市では亀岡歯科医師会が責任を持って担当医を紹介します。
くすのき瓦版 2月号
WHEN A MAN LOVES A WOMAN
くすのき瓦版2月号
いきなり英語が出てきましてすみません。WHEN A MAN・・・はパーシー・スレッジの歌うソウルバラードの名曲でエリック・クラプトンもカバーしています。団塊世代の方はカラオケで歌う方も多いと思います。何故こんなお話かと言いますと、この曲の邦題が「男が女を愛するとき」でして、今月号では「歯科医師が歯を抜こうとするとき」とはどんなときなのだ?と言うことを皆さんにお伝えしたかったからです。
私たち歯科医師が抜歯をしようかなと考えるときというのは、例えば子どもの場合では乳歯が永久歯の萌出を邪魔している場合や歯列矯正での便宜抜歯。成人の場合では虫歯が大きくて治療できなくなっている、歯並びが悪くほかの歯の清掃がその歯のためにできない場合。そして噛んだときに歯が沈むほど緩い場合あたりでしょうか。
歯は噛むためのものですから「この歯のためにここでは噛めない」となっている場合は一般的に抜歯したほうがよいのではないかと考えます。しかし、反対から言えばそれ以外は抜歯を待ってもよいことになりますよね。むし歯治療や歯周治療が進めば抜歯をしなくてもすむことも多いです。「親知らず」も他の歯がない方にとってはブリッジや入れ歯のバネの架かる歯(鉤歯)にもなります。
抜歯の適応は飽くまで「相対的」な中で考えるべきものです。ですから抜歯を考える場合でも糖尿病でHbA1cが6.5以上(以前に書きましたが覚えていますか?)、心筋梗塞が6ヶ月以内にあった、骨粗しょう症の薬を長年飲んでいる、といった方は抜歯を遠慮する傾向があると思います。透析中或いは肝硬変で体調が悪い場合もやはり同様の傾向があると思います。血液サラサラのお薬を飲んでいり方は「かかりつけ医」に相談をされたうえで抜歯はできます。その際、直近のPT-INRをお知らせいただければ歯科医師は安心して処置ができます(くすのき瓦版10月号参照)。
歯の最後(抜歯)を決断することはわれわれ歯科医師でも相当悩むところです。「この歯を抜かれて…」という会話がよく歯科医院では交わされます。しかし歯科医師の本心は「長い間もってくれたがついに駄目になって…」と、言われたいのです。そのためにも何でも相談のできる「かかりつけ歯科医院」を見つけて頂きたいと願っています。歯は一生の宝物です。貴方の宝物を「かかりつけ歯科医院」とともに二人三脚で大切にしていきましょう。
(文責 嶋村浩一)
くすのき瓦版11月号
くすのき瓦版 (11月号)
妊娠とお口のこと
4月、5月号では「学校歯科健診」、6月号では「前歯の歯並び」、7月、8月号では「飲み物について」9月号では「歯のひろば」の案内、そして10月号では「血液サラサラのお薬」の文章を書いていました。知り合いから記事内容についての質問をお受けすることも時折あります。「くすのき瓦版」に対しての関心の高さを改めて感じる次第です。
妊娠中に歯が悪くなると言うことをよく聞きます。そして妊娠中に歯科医院に健診に行こうとする女性が少ないのも実際です。歯科医院では妊婦さんに対してのお薬は安全性の高い抗生物質、痛み止めが用意できます。現在のレントゲンは極めて少量の線量での撮影が可能ですし、防護エプロンも用意できます。麻酔の注射も安全性が高く胎児への影響は極めて少ないことは「知識」としてご存知だと思います。でも妊婦さんには「母性」があります。「母性」と言うものは「本能」ですよね。「本能」はよく「理性」や「知性」を上回ります。ダイエットもなかなか成功しません。食欲は「本能」なのです。ただでさえ怖い歯科治療をわざわざ妊娠中に受けることは「本能」が許さないのかもしれませんね。
悪阻の時期には歯ブラシを見ただけでも気分が悪くなる人もいます。また妊娠中期以降は唾液が粘調になったり、歯肉が赤く腫れて出血し易くなったりすることがあります。そしておなかが大きくなると食事の一回量が少なくなり、結果として間食が増えお口の中の不潔な時間が増えてしまいます。お口の健康については「妊娠」は大きなハンディなのです。女性の所謂ブライダルケアの中に歯科も入れておいてください。
妊娠中、特に悪阻の時期は歯ブラシがし難く奥までブラシが届かなかったりします。少し小さめの歯ブラシでこまめにうがいをしながら磨いてください。うがい薬を併用していただく事も有効です。
妊娠中期から後半にかけて歯肉が腫れて出血しやすくなることがあります。これはエストロゲンやプロジェステロンと言った妊娠中に多く出るホルモンによって歯肉の炎症が起こりやすくなっているためです。またある種の歯周病菌(PI菌 プレポテラ・インテルメディア菌)が血中に入り胎盤を通り抜けて羊水に入り込んだときに子宮が収縮し、早産に至ることがあります。歯周病患者は健康な歯肉を持った妊婦に対して約7.5倍の早産(即ち低体重児出産)の可能性があることは女性にはよく知っておいて頂きたいことです。
「子どもを産んでから歯が悪くなった」とか「赤ちゃんにカルシウムを取られて、歯周病になった」ということは決してありません。むし歯や歯周病に対してリスキーな時期をかかりつけ歯科医と共に上手に乗り切ってください。かかりつけ歯科医院での定期的な健診は妊娠中にこそ大切なものなのです。妊娠中のお口の手入れが出産後の女性のお口の将来を左右すると言っても過言ではありません。