くすのき瓦版
くすのき瓦版11月号
くすのき瓦版 (11月号)
妊娠とお口のこと
4月、5月号では「学校歯科健診」、6月号では「前歯の歯並び」、7月、8月号では「飲み物について」9月号では「歯のひろば」の案内、そして10月号では「血液サラサラのお薬」の文章を書いていました。知り合いから記事内容についての質問をお受けすることも時折あります。「くすのき瓦版」に対しての関心の高さを改めて感じる次第です。
妊娠中に歯が悪くなると言うことをよく聞きます。そして妊娠中に歯科医院に健診に行こうとする女性が少ないのも実際です。歯科医院では妊婦さんに対してのお薬は安全性の高い抗生物質、痛み止めが用意できます。現在のレントゲンは極めて少量の線量での撮影が可能ですし、防護エプロンも用意できます。麻酔の注射も安全性が高く胎児への影響は極めて少ないことは「知識」としてご存知だと思います。でも妊婦さんには「母性」があります。「母性」と言うものは「本能」ですよね。「本能」はよく「理性」や「知性」を上回ります。ダイエットもなかなか成功しません。食欲は「本能」なのです。ただでさえ怖い歯科治療をわざわざ妊娠中に受けることは「本能」が許さないのかもしれませんね。
悪阻の時期には歯ブラシを見ただけでも気分が悪くなる人もいます。また妊娠中期以降は唾液が粘調になったり、歯肉が赤く腫れて出血し易くなったりすることがあります。そしておなかが大きくなると食事の一回量が少なくなり、結果として間食が増えお口の中の不潔な時間が増えてしまいます。お口の健康については「妊娠」は大きなハンディなのです。女性の所謂ブライダルケアの中に歯科も入れておいてください。
妊娠中、特に悪阻の時期は歯ブラシがし難く奥までブラシが届かなかったりします。少し小さめの歯ブラシでこまめにうがいをしながら磨いてください。うがい薬を併用していただく事も有効です。
妊娠中期から後半にかけて歯肉が腫れて出血しやすくなることがあります。これはエストロゲンやプロジェステロンと言った妊娠中に多く出るホルモンによって歯肉の炎症が起こりやすくなっているためです。またある種の歯周病菌(PI菌 プレポテラ・インテルメディア菌)が血中に入り胎盤を通り抜けて羊水に入り込んだときに子宮が収縮し、早産に至ることがあります。歯周病患者は健康な歯肉を持った妊婦に対して約7.5倍の早産(即ち低体重児出産)の可能性があることは女性にはよく知っておいて頂きたいことです。
「子どもを産んでから歯が悪くなった」とか「赤ちゃんにカルシウムを取られて、歯周病になった」ということは決してありません。むし歯や歯周病に対してリスキーな時期をかかりつけ歯科医と共に上手に乗り切ってください。かかりつけ歯科医院での定期的な健診は妊娠中にこそ大切なものなのです。妊娠中のお口の手入れが出産後の女性のお口の将来を左右すると言っても過言ではありません。